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名作映画から学ぶ空撮技術の歴史

こんにちは、ムーングラフィカのスタッフNagaokaです!
映画やMVを観ていて、上空から広がる壮大な風景に息を飲んだ経験、ありませんか?かつてはヘリコプターで撮影されていた空撮映像も、今ではドローンで手軽に撮れるようになりました。この記事では、かつて名画で使われた空撮技術の裏側を覗きながら、現代のドローン映像と比べてみたいと思います。

『The Shining』

キューブリックが作った孤独感

 

スタンリー・キューブリック監督の名作『The Shining』の冒頭では、山道を走る車を上空から追いかける映像が登場します。広大な自然と孤立する車の対比が、これから訪れる恐怖を予感させる名シーンです。

この空撮シーンは、アメリカ・モンタナ州のグレイシャー国立公園を舞台に、MacGillivray-Freeman Filmsのチームが担当しました。彼らは1か月以上現地に滞在し、天候や光の条件に応じて何度も撮影を繰り返しました。キューブリックはイギリスから細かな指示を出すことはなく、「黄色のフォルクスワーゲンを山道で撮影」というシンプルな依頼のみでした。そのため、クルーは現場で独自に撮影計画を立て、試行錯誤を重ねました。

撮影中は、ヘリコプターが低空飛行で車の直後を追うダイナミックなカメラワークを採用。この際、風や光の条件に左右され、影が映り込む可能性は想定外だったといいます。当時は、現在のようなジンバルやスタビライザー技術がなかったため、広角レンズを使用して映像のブレを最小限に抑える工夫も施されていました。

完成した映像には、ヘリコプターの影が画面の端に映り込むシーンがあります。この「ミス」に見える箇所については長年議論が続いており、キューブリックが意図的にその影を残したのではないかという推測もあります。

撮影クルーのカメラマンJeff Blythは、「編集段階で影が問題になるとは考えていなかった。劇場での上映用に正しいアスペクト比で調整されていれば影は見えないはずだったが、ビデオリリースでは影がはっきりと映っていた」と振り返っています。一方で、キューブリック自身は影が残ることを特に気にしていなかったようで、むしろ映像の美しさと流れを優先してそのショットを採用したようです。

『The Shining』が公開された1980年当時、現在のようなデジタル技術は存在せず、映画制作の多くがアナログで行われていました。それでも、この作品の空撮シーンは、映画技術の限界を超える挑戦を実現しています。ヘリコプターを駆使した空撮は、単なる技術的な試みではなく、物語の緊張感や恐怖感を高めるために計算された演出でした。

特に、重たい機材を搭載したヘリコプターでの低空飛行や、風景と車を一体化させたダイナミックな映像美は、当時の観客に強い印象を与えました。このような手法は、現代のドローン技術を先取りするような発想であり、技術的な困難を超えて映像表現を追求した結果といえます。

『プロメテウス』

異星の風景はスコットランドだった!

 

リドリー・スコット監督の『プロメテウス』は、壮大なスケールで描かれるSF映画であり、そのビジュアル表現には最先端の技術が駆使されました。空撮から始まり、緻密に計算されたVFX(視覚効果)、3D撮影技術を融合することで、未知の惑星に足を踏み入れたような感覚を観客に与える作品です。

映画の冒頭、観客を圧倒する異星の山岳風景は、実際にはアイスランドやスコットランドのスカイ島、ヨルダンの山岳地帯で撮影されました。ヨルダンでの空撮では、低空飛行のショットや滑らかなカメラワークを実現するため、徹底的に天候条件を調整しながら撮影が行われました。これらのロケーションで撮影された映像をヘリコプターで捉え、CG加工で異星の景観に変えるというアプローチが採用されています。

リドリー・スコット監督は、『エイリアン』や『ブレードランナー』でも見られるように、SF映画のジャンルに独自のリアリティと質感を持ち込むことを得意としています。『プロメテウス』では、このビジョンが空撮やVFX、3D撮影技術によってさらに拡張され、観客を未知の世界へと誘う映画体験を実現しました。
また本作では、デジタル技術とアナログ的な撮影手法の両方を駆使しており、観る人に映像表現の限界を感じさせない仕上がりとなっています。

『タイタニック』

驚異の「ミリオンダラーショット」

 

『タイタニック』で船の全景を捉えるショットは、映画史に残る壮大なシーンの一つとして知られています。このシーンは「ミリオンダラーショット」と呼ばれ、船の美しさとスケール感を際立たせるため、当時最先端の撮影技術が駆使されました。船全体を捉えるこのシーンは、CG、ミニチュア、実写、モーションキャプチャを融合した技術の結晶です。

このシーンは、グリーンスクリーンとモーションコントロールカメラで撮影され、広大な空間をリアルに表現。船全体を撮影するために、44フィート(約13メートル)の精巧なミニチュアモデルが使用され、4日間にわたる夜間撮影で完成されました。

さらに、Digital Domainが開発した水のシミュレーションは物理的な水流や光の反射をリアルに再現し、NUKEを使用した合成作業で実写、CG、煙など数百の要素を重ね合わせ、映像の完成度を高めました。この緻密な技術の融合が、タイタニック号の壮大さを際立たせています。

マイケル・ジャクソン『Cry』

音楽と空撮の融合

 

マイケル・ジャクソンの『Cry』は、壮大な自然の風景と手を繋ぐ人々の姿が印象的な作品です。カリフォルニアやネバダの広大な自然の中で、年齢や人種の異なる人々が手を繋ぐシーンは、楽曲が持つ「調和」と「団結」というメッセージを視覚的に伝えています。

特に横一列にどこまでも続く人々が手を繋ぎ、その間をカメラが周りこむように撮影されたカメラワークは、映像に広がりと動きを与えています。このシンプルでダイナミックな演出により、楽曲のメッセージがより強く印象付けられています。

このMVでは、マイケル本人は登場せず、映像のシンプルさと力強さが際立ちます。『Heal the World』の短編作品にも通じるテーマが感じられるこの映像は、空撮による広大なスケール感が楽曲のメッセージをより深く響かせています。

ドローン時代

手軽にシネマライクな映像を

昔はヘリコプターでしか撮れなかった空撮も、現代では、ドローンの登場により空撮が手軽に行えるようになりました。DJIやAutel Roboticsといったメーカーが提供するドローンは、優れた安定性と高画質な映像を実現しています。これにより、ヘリコプターでは不可能だった低予算のプロジェクトでも、空撮が可能になりました。

最新のドローンでは「自動追尾」「タイムラプス」「360°撮影」など、便利な機能も搭載されており、空撮映像がさらにシネマティックになっています。特に、映画やミュージックビデオでは、機動力を活かした流れるような動きが多用され、観客を魅了しています。

おわりに

空撮の魅力は尽きない

ヘリコプター撮影の時代からドローン時代へ。空撮技術は進化を遂げ、映像表現の幅を大きく広げてきました。昔の名画における空撮には、その技術的困難を克服した職人たちの情熱が宿っています。そして、現代のドローン技術は、それを受け継ぎながら新たな可能性を開いています。

昔の名作に感動しつつ、現代のドローン映像を手軽に楽しめるのも、今だからこその贅沢だと思います。こうした技術の進化を振り返ることで、映像制作の奥深さや魅力に改めて気づかされます。引き続き、映像表現の秘密や撮影テクニックに迫ってみたいと思います。スクリーン越しに広がる映像美、その裏側を一緒に覗いてみましょう。